2024年3月18日月曜日

『記憶を語りつぐ阪神・淡路大震災』のDVDが関西学院大学総合政策学部より刊行されました


*youtubeでも公開されています。https://youtu.be/jYqy-XZbIzc


映像解説

1. 背景

2020年は、阪神・淡路大震災の発災から25年目に当たった。大震災から四半世紀が経過しようとしていた被災地では、震災後に生まれた、いわゆる震災後世代が年を追って増加していた。そして、大震災を直接経験した人々がもつ大震災の記憶をいかに継承していくかが、重要な社会的課題としてたち現れていた。

その課題に強い関心と問題意識をもって、被災地に所在する関西学院大学総合政策学部の教員たちが震災後世代における大震災の記憶継承についての意識と態度を明らかにするための調査研究に着手することになった。1

2. 制作に至る経緯

調査研究では、2019年から2020年にわたって震災後世代の大学生を対象に、調査票によるアンケート調査が実施され、震災後世代の震災記憶継承意識の特徴や傾向が明らかになった2。まず、第 1の特徴として、多くの震災後世代が、震災の記憶継承に効果的な媒体として、被災者による語りかけ、学校教育による継承、そして、ビデオや映画などの映像メディアを選んだ。さらに、つぎの特徴の 1 つとして、継承すべき記憶について「選択的」傾向がみられた。中でも、被災者個人の感情や思いの継承より被災や復興に関する客観的データの継承がより重要視される傾向がみられた。

この調査結果から得られた知見にもとづき、さらに研究が進められた。2021年度には、阪神・淡路大震災の記憶継承を目的とする、複数の実験的な映像コンテンツが、被災地である神戸市長田区のコミュニティ放送局、エフエムわいわい(FMYY)の協力によって制作され、同じく震災 後世代を対象にした視聴反応調査が実施された3。具体的には、被災者が震災経験を語るモノローグに特化した映像として「人間が語り継ぐ阪神・淡路大震災」、そして、震災の被災状況や復興過程を客観的に示す表やグラフなどのデータに特化した映像として「データで語り継ぐ阪神・淡路大震災」の 2 種類の映像が制作され、それらを視聴した震災後世代に対して評価尺度と自由記述による視聴反応調査が行われた。

この視聴反応調査の結果は、興味深いものであった。データ中心の映像「データで語り継ぐ阪 神・淡路大震災」については、オーディエンスに 対して、大震災の全体像を把握するための知識や情報をもたらしたが、同時に、震災に対する恐怖や不安感情を一部にもたらした。他方、被災者のモノローグで構成された映像「人間が語り継ぐ阪神・淡路大震災」は、被災者の震災時の経験や心情への理解と共感がより強く醸成された。しかし、個人的なエピソードが中心で、震災の全体像が把握しにくいなどの難点も指摘された。4

3. 制作のねらい

この調査結果の知見から、これら異なった 2 つのタイプの映像を統合することによって、それぞれの長所と短所を補い合う、大震災の記憶をより効果的に継承するための映像コンテンツの制作が、次の目標として視野に入ることとなった。そして、これらの知見にもとづき、すでに制作された 2 種類の動画コンテンツを編集・統合し、 1 つの動画コンテンツが制作されることとなった。『記 憶を語り継ぐ阪神・淡路大震災』は、その試みの1つである。そのねらいは、人間である被災者の経験と記憶をとおして語る大震災の姿と、客観的なデータによって描かれる大震災の姿を統合し、それぞれがたがいに補い合うことによって、大震災を複眼的な視点で想起することを試みることである。

4. 手法と映像構成

被災者と言っても、その存在は多様である。「人間が語り継ぐ阪神・淡路大震災」では、男女 2名の被災経験者の震災についての語りが収録された。したがって、この『記憶を語り継ぐ阪神・ 淡路大震災』でも、被災者の語りに関しては、この 2 人の語りを中心に構成されている。

この 2人の男女のうち、男性は被災地である長田区で生まれ、そこで生活を営んできた人物であり、他方、女性は日系ペルー人で長田区に家族とともに移住し、就労していた人物である。

『記憶を語り継ぐ阪神・淡路大震災』では、さらに文化的背景の異なる人々、被差別地域で暮らす人々、心身に障がいをもつ人々、子ども、女性、 高齢者など、 8人の証言があらたに加えられた。これら証言映像の収録には、総合政策学部学生たちの熱心な協力があったことを明記しておきたい。

これらの証言を加えることで、被災者が多様な存在であり、大震災はそれぞれにとって異なった様相を示し、被害のあり方も復興への取り組みも異なっていることを想像、理解できるよう努めた。

ところで、「データで語り継ぐ阪神・淡路大震災」では、神戸新聞社、神戸市、政府、博物館、 研究機関、学会、大学などが公開している大震災に関する各種データをもとに、長田区に限らず、広く被災地全域に目を配り、表やグラフ、地図を用いて、客観的な表現を試みた。『記憶を語り継ぐ阪神・淡路大震災』でも、これらの情報を引き続き活用した。画像データの使用を許してくださった神戸新聞社には、心から感謝を申し上げたい。 さらに、公開されている映像資料、FMYY所蔵のビデオ映像、個人所蔵の写真・ビデオ映像を加え、また、あらたにドローンで空撮された映像を加えて、全体を構成した。そして、最終的に動画コンテンツ全体としての視聴時間は、約60分となった。

5. 制作体制・スタッフ

5-1. 研究

関西学院大学総合政策学部共同研究班:

山中速人、照本清峰、津田睦美、奈良雅美、金千秋

5-2. 出演

インタビュー出演:森﨑清登、大城ロクサナ

学生制作番組/証言インタビュー出演:為岡務、安本久美子、藤本幸二、觜本郁、角岡伸彦、

石倉泰三、吉田めぐみ、李玉順

5-3. 制作

インタビュー撮影:神吉良輔(ふとっちょの木) ドローン撮影:辻野賢登 ナレーション:森﨑清登、はまのかずみ 図像デザイン/作成:宗田宜士

 学生番組制作:

(関西学院大学総合政策学部津田睦美ゼミ)

 岡本貴登、近藤理菜、宗田凜花、中嶋一翔、早川葵、古橋玲也、三砂安純、山中碧生

(関西学院大学総合政策学部山中速人ゼミ)

江頭舞、岡田愛未、日下まりあ、小松将大、 白髪里佳、瀬戸山周、中越陽香、永沼美菜、 中城健太、辻野賢登、藤田広希、星円、 宮本隼輔、芳岡知昇、山崎聡一郎、吉山菜々子 

脚本・構成:山中速人 

制作・編集:金千秋(エフエムわいわい)

6. 使用データ・映像音響資料・文献等の出典

参考文献・データ:

・ 震災発『阪神・淡路大震災の記憶』(Web Page) ・ 神戸新聞NEXT「データでみる阪神・淡路大震災(Web Page)

・ 神戸市「震災資料室」(Web Page)

・ 神戸市消防局「阪神・淡路大震災」(Web Page) 

・ 内閣府「防災情報のページ」(Web Page)

・ 柏原士郎、森田孝夫、上野淳『阪神・淡路大震災における避難所の研究』大阪大学出版局、

1998年

・ 日本火災学会『1995年 兵庫県南部地震における火災に関する調査報告書』1996年

・ 兵庫県『阪神・淡路大震災の死者にかかる調査について』2005年12月22日記者発表資料

・ 舞田敏彦「災害での死者数は、なぜ女性の方が 多いのか『」ニューズウィーク日本版』2019年10月23日

・ 人と防災未来センター『資料室ニュース』30号、2006年11月15日

・ 都市防災研究所『阪神・淡路大地震における在日外国人被災状況調査』1995年

・ 外国人地震情報センター『阪神大震災と外国人「多文化共生社会」の現状と可能性』1996年 ・(社)兵庫部落解放研究所『記録 阪神・淡路大震災と被差別部落』解放出版社、1996年

・ 部落解放同盟中央本部・(社)部落解放研究所 『阪神・淡路大震災と被差別部落:被害の状況と復興への課題』1995年

・ 日本経済新聞「復興の街が問う未来 阪神大震災から25年」2020年 1 月17日(WebPage) 

写真:

神戸市 阪神・淡路大震災「1.17の記録」(Web Page)より 使用した写真コード(登場順)f196, f202, f208, b043, b046, a031, f005, f188, f179, g191, f126, g064

画像データ提供:神戸新聞社、神戸市、震災写真オープンデータ・ サイト・阪神・淡路大震災「 1 .17の記録」 映像データ提供:松崎太亮、チョン ミンラク、(特定非営利活動法人)エフエムわいわい 

BGM:魔王魂、株式会社VSQ


脚注

1 調査研究には、2019〜2020年度総合政策学部共同研究「阪神・淡路大震災の記憶継承に関する大震災後世代の意識調査」の認定をうけ補助金が交付された。2019年度の研究班は、山中速人(代表)、照本清峰、奈良雅美、金千秋(研究協力者)によって構成され、2020年度より津田睦美が参加した。

2 山中速人、照本清峰、奈良雅美、金千秋「阪神・淡路大震災の記憶継承に関する震災後世代の意識と態度〜調査報告(基礎編)『総合政策研 究/Journal of policy studies』61号、pp.47-69(2020-09-20) 山中速人、照本清峰、津田睦美、奈良雅美、金千秋「阪神・淡路大震災の記憶継承に関する震災後世代の意識と態度〜2019年度調査の分析」『総合政策研究/Journal of policy studies』64号、pp.73-94(2022-03-20)

3 2020年度関西学院大学共同研究公募研究A「阪神・淡路大震災の記憶継承にかかる震災後世代への意識調査と国際研究交流」の補助金の一部によって映像制作が行われ、エフエムわいわいによって配信された。

4 山中速人 , 照本清峰 , 津田睦美 , 奈良雅美 , 金千秋「阪神・淡路大震災の記憶継承のための実験番組の制作と震災後世代による番組評価 : 「人間が語り継ぐ阪神・淡路大震災」「データで語り継ぐ阪神・淡路大震災」に関する視聴反応調査報告」『総合政策研究/Journal of policy studies』65号、pp.1-59(2022-09-20)